誰かと誰かをつなぐアート。それが彼らの未来へつながる。

「絵露愚乱末世4に寄せて」 イラスト:星之杏奈

思えば挫折と遠回りを繰り返している。それはいまに始まったことではなく、20代前半からだ。
いろいろな周囲の意見や思惑・状況に意識的か無意識かもわからないまま時が何かを変えることを待っていた時期があった。そのこと自体に善悪を判断する基準もなく、いや正確に言えば、そのような善悪は自分が死ぬ時に主観的に判別し、死ぬ時に周囲が知るかどうかもわからず、時間の狭間にとり残されていけばいい、そう思っていた。

これまで書いたように、絵露愚乱末世の運営に強い疲労感を覚えたままの時期が続いた。

ただ、その時に参加したいという強い想いを持った作家がいたことをずっと覚えているし、時が流れる中で展示は労力もかかるのでイベントだけでもやってはどうかとの周囲からの提案もあった。

しかし、俺は動かなかったし動けなかった。
時が過ぎゆくなかで「俺が動かなければ、絵露愚乱末世も動かない」ことだけは理解できた。

俺に気を遣おうが、遣おうまいが。

2016年の4月のアートを取りなく状況というのは、コマーシャルアートはともかく、はっきり言って「つまらない」と感じた。
シェアやイイねの数が作品の評価指標足り得る世界なんて多くの作家は望んでいない。それだけのコミュニケーションなんて味気ない。

誰かに届けと想いを込められた作品はイイねやコメントだけでは、計り知れない魅力がきっとある。

俺はアート界の状況とかなんて知りはしない。

ただ、真摯に個々の状況と向き合い、誰かに届けと想いを込めて作品を作り続ける作家たちの作品を、誰かに届けられる一助になればと、再び絵露愚乱末世を再起動した。

そこで繋がる作家と観客が、いずれ「彼らを取り巻くアートの状況」を変えていく。

そう信じている。

 

絵露愚乱末世公式ブログ : http://eroguro.grats.jp

2回続いた成功と3回目での挫折。

「絵露愚乱末世4に寄せて」 イラスト:星之杏奈

さて、絵露愚乱末世の話を続けていく。主宰ではあるし、企画・プロデュースを謳っているものの、あくまで一個人の見解だと思って欲しい。みんなそれぞれ意見や想いはあるので。

1回目を終えて、インディペンダントな作家グループにしていきたいと思っていたので、2回目は新宿眼科画廊さんに展示会場を変え、3回目は吉祥寺のgallery re:tail さんへと転々としていった。これについては賛否両論あると思う。個人的には、同じ会場で何回も続けていると既視感が強く「ただ作家を変えただけ」みたいになるのを避けたかった。

1回目はイベントも行列待ちができるほどで大盛況だったし、展示もこれでもか!というほどに壁や階段の隅々に作品が溢れエネルギッシュな展示になった。出展していただいた作家さんの気合と努力の賜物だと思う。

2回目は千葉くんのインスタレーション企画「千魔羅観音」をはじめ、共通テーマ作品として各作家の作品とは別に制作してもらい投票してもらうなど、実にグループ展らしいまとまった展示だった。

3回目はというと、高名なエログロ漫画家の氏賀さんや朝倉景龍など質の高い作家さんも参加し、展示的には会場も広く一番出来が良かったのではないかと思う。ただ宣伝的にイベントは集客に難があるなど課題が多く見つかった。なにより、惰性というのを俺自身は強く感じていた。

広いし、展示もよいのだが、2週間という会期はやはり長すぎたかもしれない。それに偶然ではあるが俺の個人的な事情(精神状態やら仕事やらなにやら)が崖から落ちる寸前みたいな状況だった(苦笑)こともあり、疲労がピークに達してしまった。

 

その後、このブログでも空白期間があるように一切のアート活動をしばらくの間しなかった。
できなかった。やる気がおきなかった。
生きるだけで精一杯だった。

土スペというイベントを縁があって池袋でやったものの、集客は芳しくなく、9ヶ月で打ち切りになった。俺の心は砕け散った。

そして、ただただ時が流れた。

(続く)

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絵露愚乱末世のはじまりを振り返って

2010年の12月、俺はFTPS(正式名称:Flickr Tokyo Photo Session)という写真共有サービスの草分けFlickrのグループの浅草でのオフライン・ミーティングに参加した。FTPSを主宰していたZERO Stage氏とほか何人かと、外は寒いし、そんなに慌てて街頭スナップを撮って周ることもないだろう、といいつつ、せっかく浅草にいるのだからと神谷バーで電気ブランを飲みはじめた。

そのとき「世に出せない写真があるのだけれど、いつもどうしようかと思う」という話がでた。あまりはっきりとは言わないが、どういう写真かはみなさんの想像にお任せするとして。何よりも重要なのは、断じてそれらはアートだということで(本当にここは重要!)。

誰かに見せる機会もないし、ましてやオンラインにアップロードするのもちょっと違う気がする。

ならば、「それらを展示できる機会をつくろうではないか」とふたりが意気投合し、じゃあエロだけではつまらないし、エログロぽい作品をつくる作家仲間や知り合いも多いのでみんなに協力してもらってエログロのグループ展をやろう、とプロジェクトが立ち上がった。

書いてしまうと、いたって普通だな(苦笑)。

まぁ、でも重要なのは、「機会がないならつくればいい」という発想とそれを実現する企画力と実行力
当時から現在でもエログロをテーマとした展示やイベントはあるわけで、われわれが新たに立ち上げるエログロのグループ展をどのようなコンセプトとテーマでやるか、というのが肝だった。

コンセプト自体はすぐに決まった。
なんてことはない。「18禁コーナーのあるエログロ展」だ(また身も蓋もない…w

しかしテーマをつくっている段階で東日本大震災が起き、それこそ社会状況はヒッチャカメッチャカになってしまった。自粛ムードが世間を覆ったが、結論としては、われわれは新規のエログロ・グループ展だし社会に広く知られているわけでもないし、知られようとしているわけでもない。ならば開き直ってやるしかないよね、とw

そこで、出来上がったのがキャッチコピーやDMのビジュアルイメージだった。
さまざまなジャンルの作家が集い、カオスのような展示にしたい。そのためには開き直って勢いをもって進むしかない。その当時は、そう思っていた。

エログランマッセ 絵露愚乱末世

2011年8月。ヨコハマにディープインパクト。

 

放射能がなんだ。オレたちにはエログロがあるじゃないか。

家から出て勃てよマスラオ、枕ではなく股間を濡らせよオトメ。
新進気鋭の作家達が、イマを、みらいを、誘惑する。

 

■本企画展の狙い

ポストモダン社会と呼ばれる現代では、過去に「サブカルチャー」と呼ばれていたものと「メインカルチャー」の優劣がほぼなくなりつつあります。

一方、現代美術という枠組みは曖昧さを孕みつつ、多用な表現を取り込みながら巨大化し、カオス化しています。

そのような中、あえて「サブカルチャー」の中でもメジャーな部類に入ると思われる「エログロ」というジャンルを再度見直し、新たな解釈と表現で「エログロ」の未来を探ろうとするのがこの展示の狙いです。

 

■本企画展の概要

本企画展では、総勢16名の作家が、イラストレーション、ペインティング、写真、ミクストメディアの立体、ポエトリー、人形などさまざまな作品を展示します。

展示場所は、再開発後若手アート作家達が集まりはじめている横浜の黄金町・日ノ出町・野毛エリアにある、民家を改造し2010年10月にオープンしたばかりの新進気鋭のカフェギャラリー「artmania cafe gallery yokohama」です。狭くかつ立体的な独特の建造物で16名の作家が、所せましと繰り広げる「エログロ」の新境地をぜひ、ご高覧いただき、講評を賜りたく、ご案内申し上げます。

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絵露愚乱末世4のステートメント

「絵露愚乱末世4に寄せて」 イラスト:星之杏奈

この数年、FacebookやTwitterなどいわゆるソーシャルメディアに対するもやもやした想いをずっと抱えていたのだけれど、雑誌「考える人」に掲載されていた詩人最果タヒさんのエッセイがこの霧を晴らしてくれた。俺と同じような想いを的確に言語化し、さらには創作と独自性に立脚した個々人の存在価値を明らかにしたうえで、安易にわかったとしてしまうソーシャルメディアを通じたコミュニケーション(実のところソーシャルメディアに限定してしまうのはかなり野蛮な解釈だが)に「わからないぐらいが、ちょうどいい」と言い切るかたちで疑問を呈していた。

俺は彼女の名文に、光明を見出し、勇気をもらった。

時を同じくして、2012年9月以来、開催を凍結していた絵露愚乱末世というエログロをテーマとしたグループ展を、また開催しようという話が関係者のあいだで持ち上がった。おそらく表立ったところには書いていないが、前回の絵露愚乱末世の後、俺は二度とこのグループ展を開催したくない、と周囲に漏らしていた。

現在でこそ、よく見るようになったが、2010年前後のグループ展はギャラリーが企画・主催・運営するものが多かった。そのような中で作家自身が出展作家を集め、企画し、展示場所を探しあて手配し、告知・宣伝・集客し、搬入・展示するまでをスムーズに進行するためには、多大な労力と時間が必要だった。簡単に言えば、割に合わなかった。それが凍結の大きな理由のひとつだ。

そこから開催するまでにいたった理由を語るのは別の機会に譲ることにして、ここではステートメントを紹介して筆を置くことにする。

■絵露愚乱末世4 ステートメント

美と快楽を追求していただけなのに、いつの間にか政治家の顔や夕飯、知らない人の笑顔、唐突な広告などで画面が埋め尽くされてしまい辟易したことはありませんか。利用者のための利便性という名目で、知らず識らずのうちに私たちが目にする検索結果やSNSのフィードは非公開のアルゴリズムにその優先順位を変えられてしまい、非常に偏った情報しか得ることができなくなっています。私たちが胸を躍らせて飛び込んだ電脳の世界はいまや閉塞感と倦怠感に満ちています。

それとともに、より多くイイネを得るために、より多くシェアされるために、加工された情報がもてはやされています。ただつながっていたいだけなのに、ただ連絡を取り合えるだけで心安らぐのに、独自性の一部を削り落とすことが目的ではなかったはずなのに。数の論理に取り込まれるような友人関係など欲していなかった。誰かに伝わってほしい、気付いてほしいと発した一言が届かないことがあるなんて思いもしなかったーーー。

今回で4回目となる本グループ展では、エログロというモチーフを通して、そのような世界でも独自性を育み創作し続けている実力派の作家達の表現を一堂に集結。スマホやパソコンのスクリーンでは体験することが難しい世界観を、イイネやシェアの数では計り知れない魅力を、誰かに届けと想いを込めた作品を。
横浜みなとみらい地区と線路を隔てた野毛地区にて存在感を発揮する古民家を改造したギャラリー「artmania cafe gallery yokohama」全館に展開するこの展示を通じて、貪欲なほどリアルに提供したいと考えています。

「絵露愚乱末世4に寄せて」 イラスト:星之杏奈
「絵露愚乱末世4に寄せて」 イラスト:星之杏奈

絵露愚乱末世公式ブログ : http://eroguro.grats.jp

感想も反省もクソもないと思ってしまったw

先週の土日に、artmania のイベントに参加し3年半ぶりに展示した感想とか想いとかを書き留めておこうと思っていたのだけれど、自分としては制作期間や作品の出来栄えに良い意味でも悪い意味でも納得していることに気づいて、やっぱり止めた!(笑)

言い訳がましくなるのも嫌だし。

ともかく、お忙しい中、2日間という短い会期にもかかわらず、横浜へ足を運んでいただいた友人知人の皆様、本当にありがとうございました。一緒の時間を過ごせたことに感謝しています。

また、イベント前後でご都合悪く来られない方からも、多数の励ましや無念のメッセージやコメントをいろんなメディアでいただきました。何度涙したことか。今後もNo Reason の新シリーズ制作を続け、いつの日か、また展示したいと思っています。その時にお会いできることを楽しみにしています。

Masashi Furuka “2nd Act” in yokohama art apartment