40回目の撮影。当時ずっと精神状態がわるくて、それまでなら撮影後なるべく早く制作記録を書いていたのだけど、この撮影だけが記録できていなかった。個展まで時間がないなかで焦っていたこともあるのだろう。
ずっとずっと心残りだった。
撮影当日の記憶は今でも曖昧で。思い出そうとしても思い出せない。
そこで、2016年7月。少し前に制作活動を再開した俺は、意を決してモデルをしていただいたおふたりにお願いして4年ぶりにお集まりいただき、その当時のことを振り返っていただき、録音することにした。
しかし、その録音からも、また9ヶ月が経ってしまった。
モデルのひとりのDくんは故郷の青森へUターンしてから、はや半年が経った。もうひとりのYさんは、2017年2月のNo Reason 第42回の撮影にモデルとして再度ご登場いただいたのだが、この制作記録に手がつかず申し訳なかった。
単なる言い訳だが、録音後に俺を取り巻く環境が激変したため、なかなか手がつけられずにいた。
そしていま、おふたりの寛大さに感謝しつつ、その録音を聞き返しながら、5年ほど前の撮影の制作記録を書いている。
●
撮影は、2012年10月8日。
待ち合わせ場所は下北沢駅南口のマクドナルドだった。
俺とDくんは山本梢を通じて少し前に知り合っていて俺の個展に足を何度か運んでくれていたが、YさんはTwitterでモデル応募していただきその日が初対面だった。
個展に向けた最後の撮影で、モチーフは「ふたご座」。
なんとなくふたりの雰囲気に似たようなものを感じていたのと、ギリシャ神話をモチーフにした一連の作品では近親者の愛憎関係が多い世界観の中で不足していた、男性のゲイカップルを題材にしたかったからだ。
その日の撮影のことを振り返ってDくんは
「本当にMasashi さんのポージングを指示する口調がとてもきつくて怖いし、すごく嫌だった」
とのこと。Yさんは
「初めてお会いしたので、そういう方なんだな、と思った」
そうで。
インタビュー時に、なぜ俺が極度に神経質だったのか、理由を想像してあれこれ話しているのだけれど、その弁明を聞いても、今の俺はピンとこない(笑)
おそらく撮影時間はすごく短かったような気がする。
下北で駅近くの今はない跨線橋の階段で、暮れゆく秋の広い空を入れて撮りたかった。野外ロケに決めたのは、File:04に含まれる他の作品はスタジオ撮影が多かったためだろう。野外ロケなら当時愛着があった下北沢で、と思ったのかもしれない。
撮影当日は休日だったため人通りが多かった。ロケハンをしていたので撮影場所は決まっていたが、なかなか思うように撮れなかったように思う。いま作品を見ると、ストロボをバウンスさせて撮っているし、Dくんはワンピースを着つつ、胸がはだけている。とても目立っていたに違いない。
彼はとても苦痛だったようで、「Yさんは顔も小さいしスリムで背が高いのに、こんな人と一緒に撮られて、胸もはだけてるし」と振り返っていた。胸がはだけていることを最後に持ってくるあたりにDくんらしさを感じる。
●
ふたご座の物語は兄弟愛の物語。
いま作品を見ていると、とても初めて会ったふたりとは思えないぐらいしっくりくる。
●
Dくんは撮影するうちに「学芸会の”客がじゃがいもに見える”ようになるのと一緒で、そのうち気にならなくなりました」と言ってくれた。それは彼なりの俺への気遣いだと録音を聞いて思う。
またこのふたりに他の作品でモデルになって欲しいと思っている。
その時はなるべく早く制作記録を書こう。