43 No Reason 第33回撮影

※この記事は2011年4月に書いた記事 に加筆修正しています。

 

この撮影は、ぜひとも叶えたかった。

年末からまえださんがビザ申請のために、
フランスから一時帰国しており、
なんとかまた一緒に撮影したいね、と
ふたりで言い合っていたからだ。

まえださんは忙しいなか、
時間を工面してくれて、フライトの前日(!)の
撮影を敢行することになった。

今回のモデルは、WEBからモデル志望していただいた
大山さん。

顔合わせとシーン打ち合わせ、
テスト撮影をちょこっとして、
撮影に挑んだ。

ロケ地は大山さんの部屋。

スタイリストさんが見つからなかったため、
衣装はオレがWEBでレンタル衣装を発注w

そして、当日。

小道具に割れた酒瓶を使うため、
撮影前に吞みはじめる3人ww

大山さんの調子がすごくよくなって、
お酒好きなんだなぁ、と思ったw

撮影は、つつがなく終了。

まえださんは、
「やっぱりフルカワさんらしい写真だ」
と言ってくれた。

1年半ぶりぐらい空いて、一緒に撮影したのだが、
そんなブランクなど全く感じない雰囲気で、
楽しかった。

そして、オレは家に帰って即行データ作成と、
プリントして、出発になんとか間に合うよう発送したが、
間に合うかどうかは本当に微妙だった。

そして、一週間ほどののち、フランスのまえださんから、
メールが届いた。

「データと写真、確かに受け取りました!」と。

今度は、数年の滞在となるよう。

また、同じ雰囲気で撮影できるといい、
いや、できるはずだと思う。

お互いに成長したうえで。

42 No Reason第32回撮影

※この記事は2011年4月に書いた記事 に加筆修正しています。

 

今回のモデルは、東山佳永さん。
そして、またまた登場の大河くん。

東山さんはダンス・パフォーマンサーで、
しなやかで美しい肢体の持ち主。
昨年の竜宮美術旅館でのパフォーマンスを拝見し、
オレからラブコールを送って、モデルの承諾をいただいた。

事前に、赤田さん、Natsukiさんを交えて顔合わせを
行ったさい、某邸宅が候補に挙がったのだが、
なにぶんオレが休職の身で先立つものがない。

なので、代わりになりそうなところを探した。
そして、見つけ、実際に足を運んだのが、
上北沢にある「賀川豊彦記念・松沢資料館」という場所。

コンクリートの壁面で構成されたモダン建築で、
光の庭などがあり、綺麗なところだ。

しかし、オレの目当ては、さらにこの中にある「礼拝堂」だった。

撮影の交渉をすると、ご担当の方がとても親切かつ丁寧で、
社会学にオレが詳しいことが伝わったらしく、ひどく感心してくださった。

そして、案内された「礼拝堂」は、
昭和6年建築、というもの。

空気の澱みがなく、すごく感じが良くて、この場所に決めた。

今回の作品テーマは、
「天女の出産死」
だった。

そして、当日ご参加いただいたのは、以下の方々。
・モデル 東山佳永さん
・モデル 大河くん
・付き添い かなちゃん
・スタイリスト 赤田さん
・メイク Natsukiさん
・撮影助手 さとこさん
・撮影 Masashi Furuka

と、久々に大がかりの撮影になった。

というのも、作品テーマの通り、
これまで「死」のみが多くを占めた作品に、
新しく「生」、しかも「出産」を入れる、という
作品としては大きな転換点ともなりうる作品。

当日、記念館と予約時間のやり取りがうまくいってなかったのが
発覚し、撮影時間が少なくなってしまった。オレのせいだ。

赤田さんのスタイリングが冴える。

Natsukiさんも天女をイメージし、
素敵なヘアメイクだった。

撮影は巻きで進む。

メインカットをなんとか数パターン撮り終え、
あとは、東山さんの宣材を撮影。

とにかく逆光に透ける身体のラインが、
とても美しい。

そして、撮影終了。

実は、当初決めた料金よりも、
値引きして下さった。本当に「売れない写真家」にとっては、
涙が出るほどありがたい。

しかし、その浮いたお金で、
打ち上げでみんなで昼食www

入った地元の店が、またすごくて、
嘘みたいな大盛りや、意表を突く盛りつけで、
一同苦笑しっぱなし。

東山さんとNatsukiさんは、
オレが見つけていた銭湯へ。

そして、今回初の助手を申し出ていただいた
さとこさん、ありがとうございました。

礼拝堂の椅子の出し入れなど力仕事なども
手伝っていただいたり、高低を利用したカットの際に
フラッシュなどを移動していただいたり、
本当に助かりました。

オレは疲れてしまい、即帰宅したのであります。

で、このシリーズは、これまで使っていなかった「合成」を
使うことを前提としています。

小さい写真では、わからないのですが、
右下に輝くのは「カシオペア座」。

星座が意図するもの、それが伝わることを祈っています。

1008079296_245

41 No Reason第31回撮影

※この記事は2011年2月に書いた記事 に加筆修正しています。店名などは当時のものを使用しておりますが、現在は営業されていません。

 

実は1月中旬に撮影していたモデルさんが、一家急病のため、
延期になってしまい、2011年初めての疑似死体撮影は、
1月末日だった。

場所は、麻布十番にある、友人中山さんのお店
ナラコン(正式名称:「ヨルcafe/bar ナラ cON-temporary」を
お借りして撮影した。

撮影途中、イベントでお世話になった
おかみさんにもご挨拶できた。
いろんな人たちに見守られて、
オレは作品を作り続けている。

この日のモデルは、Mammyさん。

デザフェスの出展者一覧でオレの写真をみつけて、
デザフェスでブースまで来てくれて、モデルにしてください、
と依頼をしていただいた方。
個展にも来てくださった。ありがたい限りだ。

衣装は、そのデザフェスで使用されていた
メイド服w

そして、ヘアメイクはNatsukiさん。

Mammyさんは被写体も何度かしているそうだが、
事前に参考までに送ってもらった写真が、
残念な出来だったので、まずはオレの腕を信用して
もらうことからはじめる。

「自分じゃないみたい」

メイドという設定なので、今回はナチュラルメイクなのだが、
Natsukiさんとオレの魔法だ。

合計2シーン撮ったのだけれど、
撮影するにつれ、
Mammyさんは綺麗になっていく。

疑似死体なのに、表現はおかしいが、
モデルさんも「気持ちが入る」のだ。

採用シーンは、最初に撮ったほうにすることにした。

No Reasonの中では珍しく4灯も使った
凝ったライティング。

オレの用意した小道具や、
ナラコンにある小道具も
スパイスとして効いている。

撮影後は、中山さんにご無理を言って
休業日なのに、料理と飲み物を
つくっていただいた。

客はオレたち3人だけ。

でも、NatsukiさんもMammyさんも
また来たい、
友達に紹介したい、
と言ってくださった。

写真を構成する上で、
その場の「空気」はとても重要だ。

撮影準備の間、中山さんも、
Natsukiさん、Mammyさんと話していた。

そう、この写真には、
この店の「空気」をつくっている
中山さんの心まで映っている。

霊園の夜明けがもたらした唯一の成功。

4年間制作を凍結していた「No Reason」を再始動するにあたって、一番大きなきっかけは次シリーズのコンセプトとビジュアル表現が明確になったことだった。以下、長文ですが、お付き合いいただけると幸いです。

コンセプトにぶら下がり、撮影までに二転三転した「撮り方」。

コンセプトは「再生へ」であり「再生」ではない。
「再生」というと「再生した瞬間」や「再生した後の時間」というニュアンスを含んでしまう。そうではなく「再生へ」は「再生前」であり「再生に至る過程」つまり「死後の世界」だ。これまでの「No Reason」50作品では、さまざまな死因と死んでいるシーンを例示することがコンセプトだったが、今回は「死後」に焦点を当てている。

何を言ってるんだこいつは、と思われる方も多いだろう。もちろん俺も見たことがない(苦笑)。

しかし、俺自身の宗教観から想像することで世界観を構築することはできる。であれば、ビジュアル表現ができるはず。そこを目標に挑むというのが今作品の最大の課題であり、見どころだ。実は当初「ソラリゼーション」を用いようと考えていたが、いまの俺のデジタル写真のみの制作プロセスでは「ソラリゼーション」を実現するためにはPhotoshopを用いことが不可欠であり、結果として前回の「FIle:04」と同じような印象を観る人に与えてしまう懸念があった。「FIle:04」はモチーフがギリシャ神話だったということもあり画像合成を前提とした撮影・制作をしていたが、ファンタジー色が濃くなる一方で、リアリティは当然薄れてしまった。

もちろん、死後の世界は一般的(科学的?)にはファンタジーではあるのだけれど、俺が描きたい死後の世界はむしろリアリティある現実世界に近く時折ふと現れる心象風景のようなもので、その制作過程においてはリアリティを保持するためにもできればPhotoshopを使いたくない。

そこで思い至ったのが「多重露出(Multiple Exposure)」だった。もちろん、Photoshopでも多重露出のような合成が可能だし、現在ではスマホのアプリでも多重露出もできる。なんなら近頃巷でちょっと流行っていたりもする多重露出。

調べてみると、俺の現在のメインカメラD810でも、もちろん多重露出は可能である。しかし、とにかく機能の制約が多い。ゆえに撮るのはやや難易度が高い。調べているときにわかったことだけれど、Canon の5D Mark3 は多重露出機能がとても豊富で優秀。比べたら泣きたくなるくらいに(笑)

まぁ撮影日前日に無い物ねだりをしても仕方ないので、腹を決めた。
D810で、多重露出で、死後の世界を表現する、と。

途中で何度も投げ出したくなった。こんなことは初めてだ。

多重露出による撮影は何度か経験があるが、どれもお遊び程度。本格的に作品を制作するのは初めてだ。撮影前日に撮り方を変更するのは我ながらいかがなものかと思うが、最終的なイメージ、つまり目標が明確なら懸命に取り組むしかない。そうやって俺はこれまで作品をつくってきた。

深夜0時に集合し、最終電車が通り過ぎた踏切や人影のない商店街のアーケード、国道脇の地下道などで撮影を繰り返すが、うまくいかない。何がうまくいかないかというと、モデル以外のすべて。構図や露出、色、テクスチャなどなどすべてがうまくいかなかった。うまくいかない原因を分解して解決策を試みるも、いくつもある原因のうちのひとつを解決してもトータルで画にならないのが多重露出。

サンプル写真(作品ではありません)
サンプル写真(作品ではありません)

あきらめかけた。
途中で放り出したくなった。
愚痴りもした。

情けない。

しかし、モデルの出川くんは何度もポーズをとり、露出の猶予時間にさっと場所を変える。嫌な顔ひとつせずに。何度も何度も繰り返す。
たぶん彼には確信があったんだろう、と今では思う。
答えにたどり着ける、という確信。

今回の撮影にもっとも適した被写体であることは間違いなかった。

 

薄暗い霊園に夜明けが来る。そして…

ロケハン時に俺は心底恐怖した。夜の霊園の漆黒の闇。やや湿りのある風。カタカタなる墓碑や献花・卒塔婆。揺れる影・・・。もう何もかもが怖くて怖くて。
なんとか撮影前に俺がたどり着いた解決策は「夜明けに撮ること」だった。

正直うまくいかない撮影を繰り返したために心底疲れたので、気分転換にと休憩を挟みつつ、午前4時前に霊園に着いた。東の空は明るくなり始めていて、次第に恐怖心も和らいだ。

安堵してばかりではいられない。太陽は上り始めると早い。
撮影場所を決め、ふたりでしばし墓前に手を合わせ、撮り始める。
先ほどまでとは違い、少しいい感触の画が得られた。

ふたりで画をチェックし、ポージングや構図に手を加える。

どんどん空が明るくなると、露出が変わる。
画の印象も変わる。二三度撮るとずいぶん遠くの墓碑まで見えるようになった。

だめだ、時間がない。

もうあと一回で決めるしかない。

 

時計を見ると、日の出の時刻だった。
撮った写真を見る。それまでとは明らかに出来栄えが違った。

撮影終了を出川くんに告げ、最後にもう一度、俺たちは墓前で手を合わせ、礼を言った。

この日一枚だけの成功写真。これを展示します。

ふだんの作品撮りでは、最低数枚は作品として使えるクオリティの写真を撮るまでは撮影を止めないことにしている。それが当たり前だと思っている。しかし、この日は一枚だけで納得した。そしていま、この成功写真を見ても、展示に充分値するものだと満足しているし、「No Reason」の次シリーズを多重露出で撮影しようと決心させるに足る一枚だと思っている。

今年の6月18日(土)と19日(日)の二日間、昔からお世話になっている横浜の artmania cafe gallery yokohama にて開催される展示イベント「yokohama art apartment」に成功写真を出展します。少しでもご興味がおありの方は足をお運び頂けると嬉しいです。

自分の弱さと醜さを超えてゆけ。

2009年から2012年までの間に、「No Reason」という疑似死体写真作品を個展4回、50作品を制作した。2012年の11月の個展時には撮影をしていなかったので、およそ4年間この作品の制作を凍結していたことになる。

 

凍結していた理由はいろいろある。精神状態や体調不良が続いた。独立して個人事業主になったことにより生活や経済環境が一変してしまった。東日本大震災を契機に変えた作品メッセージをどうするべきか考えてもわからなかったなどなど。

「Uncostumed Love」という作品をつくったものの、それはコンペに向けた作品という位置付けだったし、この作品も続けていくことに多くの課題があった。

ともかく、4年という月日の間に、心療内科は行かなくてもよくなったし、服薬も止めた。でも服薬を止めたからといって傷口が塞がるように、鬱々とした状態がなくなるわけでもない。

4年という時間に意味があるわけでもなく、単にいま「つくりたい」という気持ちが再び湧いてきたということ。そして「つくるのであればこういう作品」というイメージが持てたことで、前に進む踏ん切りがついた。

つい先日、被写体になってもらう友人と打ち合わせし、撮影日・撮影場所も決まった。彼は4年前、最後に撮影した「No Reason」作品のモデルふたりのうちの一人だ。

打ち合わせ後も作品のことが頭から離れない。居ても立ってもいられず撮影場所にひとりで行って下見をした。いまはまだどことは言えないが、俺はとても恐怖した。必死にカメラを構えた。数枚の写真を息も絶え絶えになってカメラに収めた。しかしそれでも落ち着くことはなく、ますます頭のなかにさまざまな疑問が浮かび、それらは消えず充満するばかり。帰り道も恐怖と混乱寸前の頭はパニック寸前でもう少しで過呼吸になるところだった。

そういえば、 No Reason 最初の撮影の前もこんな感じだったのかもしれない。
作品を制作する時に、まず初めに対峙すべきは自分の弱さや醜さだ。それらを認めることで次に進めることを俺は知っているじゃないか。

負けるな。
撮影日は近い。